[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
侵入
 草木も眠る丑三つ時。(夜中の3時)
 秀雄は合鍵を使って、沙耶花のマンションのドアを開けた。
 案の定、チェーンロックが、かかっていた。
 薄ら笑いを浮かべた秀雄は、ギターの黒いソフトケースの中から、大きな「バン線カッター」を取り出した。
 ──バッツン!
 鈍い音がして、チェーンが切れた。
 玄関に入りドアを閉め、ウチカギをかける。
 懐中電灯を取り出し、点灯する。
 靴箱いっぱいにカラフルな靴が並んでいる。
 防臭スプレーの匂いがする。森林系の香水のような香りの、残り香が漂っているのだ。
 リビングへ入ったところで秀雄は、可笑しさが込み上げてきた。
 これまでの行き当たりバッタリの強姦行脚と違って、今夜はバン線カッターに懐中電灯と、準備万端なのだ。
 その事が何だか、そぐわない感じがして、可笑しくなったのだ。
 ──ふふふふ。……らしく、ねえんだよな。泥棒じゃあんめえし。
 だから、リビングの電灯をバッとつけ、ソファーにデンと腰を下ろした。
 ──ふう。やっぱこの方が落ち着く。
 相変わらず変な男である。
 ファンからのプレゼントであろうヌイグルが、大量に置かれていたが、所狭しって訳じゃない。
 20畳のリビングは広々としていた。
 それに、住み始めてから、まだ3ヶ月を経てない部屋の中は、生活感が染み込んでない。
 秀雄は立ち上がった。
 ──忍、忍、しのしの……なんてな。ほっかぶりでもしましょうか?
 ──ふはは。クマちゃんのスリッパかあ。楽しいね。
 と、こちらも広いダイニングへ移動した秀雄は、ここの電灯もつけた。
 リビングにダイニング。家の中はすっかり明るくなった。
 冷蔵庫を開けると、アンズ酒の小ビンが並んでいた。
 取り出して飲みながら、廊下と玄関、ついでにバスルームとトイレの電灯もつけっぱなしにする。
 ──ボクちゃん暗闇が恐いの。なんちゃって。
 ついでに中をチェック。
 ──へえ。バストイレ一体型のユニットバスじゃねえんだ。
 一回りした秀雄は、リビングのソファーへ戻る。
 リビングの奥。つまりソファーのすぐ後ろと、ダイニングの隅にドアがある。
 これが寝室らしい。
 ──そうか。小松さんは寝室の方から、ドアにすき間を作って覗いたんだ。
 ──ダイニングから回り込んだって訳だ。
 ──その時、沙耶花は、リビングのソファーの上で、ヤってたって事になる。
 ──つまり、この場所じゃねえか。へっへっへ。
 秀雄はおもむろにタバコに火をつける。
 くわえタバコで、ギターのソフトケースの中から細身の、綿の赤縄の、短いやつを取り出した。
 このギターケースは副党首のヘスから貰ったものだ。
 赤縄は、SMマニアのロッカに貰ったものだ。
 ロッカは長い赤縄を買ってきて、目的別に短くカットしていた。
「ああ。家じゃ、こゆこと出来ないからな。……こうやって縄尻を薄いノリに浸しとく。固めとくんだ。こうしなきゃ縄尻がバランバランにほぐれてくるだろ? 
「あははは。なーにが匠だ! このドスケベ!」
 とヘスが言う。
 ロッカは、事ム所の床の日当たりの中で、赤縄を並べている。
 その隣では、ヘスが、趣味の植物標本の、「押し花」の虫干しをしている。
「秀雄、シドケって知ってるか? センブリは知ってるよな。
「あははは。なーにが、睨んでる。だ」
 とロッカ。
「お前の、薄ッパゲの心配してやってんだぞ!」
 と、ヘス。
 秀雄は、アンズ酒を飲み干して、空ビンをテーブルの上にタンと置く。
 ステンドグラスのように綺麗な灰皿の中に、ぎゅっとタバコを揉み消した。
 そして
「そろそろ始めっか!」