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新たな獲物



 水もしたたる秀雄は、衣料専門店『ウニクロ』の店内に入った。
 迷惑顔なのは客だけじゃない。
 店員だって、かなり、たじろいでいる。

 だが、ずぶ濡れの情けない姿ではあったが、かろうじて便臭はしない。
 池に落ちたかいがあったと言うものだ。
 洗剤も無いし、ヤケクソになって冷たい水の中で、一心不乱に洗ったのだ。勿論トランクスは棄てた。

「まあ! 裡弁寺りべんじの境内の、お池に落ちたんですか? 風邪ひいちゃいけないわ」
 と、秀雄と同い年くらいの女店員が、大きなタオルを出してくれた。

「遠慮なさらずに使ってくださいね」
 と、言ってくれたので、やっとゴシゴシと頭を拭く事が出来た。

 優しい女は誰もが好きだ。
 だから秀雄もその女店員に、衣料品を一式選んでもらう事にした。

 秀雄は大柄で手足が長いので、サイズを探すのが一苦労である。
 女店員は、付きっ切りで探してくれた。
 流石に恐縮して尋ねてみた。
「俺ばっか、付きっ切りってのは・・・その・・・迷惑じゃないすか?」

「ご心配なさらずに。・・・私、元々、此処のスタッフじゃないんです」

「え? でも、ウニクロの制服、着てるじゃないですか?」

「ええ。私、3日前まで、ウニクロ北京店におりましたの。今度、やはり中国の、南昌ナンチャン店がオープンするんですけど、そちらの営業が始まるまで、久々に帰国している訳なんです」

「へえ。さすがに『一人勝ち』のウニクロだあ! スゲ、国際的って言うか・・・・ムギコさん、ムギコでいいの? 店長さんなの?」
 名札には、青畑麦子と書いてある。

「ええ。麦子ムギコって変な名前でしょ? うふふふ」
 自信に満ちた笑顔の中に、あどけなさがちょっぴり残っている。
 若い女店員が会釈をして通り過ぎる。
 客の秀雄に対して以上に、麦子に敬意を表しているのが解る。

 麦子が言う。
「一応、北京の方でも、責任者やらしてもらってました」

「スンゲ! 『一人勝ち』ウニクロの、海外切り込み隊長だ。ホント、スンゲなあ!」

「うふふふ。あまり『一人勝ち』とか、おっしゃらないで下さい。でも、久しぶりなんです」

「へえ。北京、長かったんですか?」

「それもあるけど・・・名前・・呼んでもらったの・・・」

麦子むぎこさん。・・・可愛くて、いい名前だと、俺は思うよ」

「ありがとうございます」
 両手を前に揃えて、模範的なお辞儀をした。

「実家はお久しぶりでしょ?」
 と尋ねると、
「いーえ。私、北海道ですから、……とっても、帰れません。出発するまで、若いコ達の、寮の空き部屋を借りてますの。どうせカバン一個だけですから」
 と答えた。

「で、いつ出発なんすか?」
 と聞くと、
「ええ。明後日です」
 と答えた。
「へえ。慌ただしいっすねー」

「ええ。本当に・・・・・」

 ──へえ。この女、加奈子より色白だあ。綺麗な顔をしている。

 170センチ。明らかに巨乳。そして、日本人離れした抜群のプロポーションなのだ。
 善く、くびれたウエストと、バンと膨らんだヒップのメリハリのお陰だ。
 脚は、すらっと格好良い。つまり、丈夫そうって事。
 



 こんな体型の女(加納美香や杉本彩みたいな)には、虚弱日本男児(勿論、秀雄の事ではない)としては、思わず怯んでしまいそうになる。
 しかし麦子は、優しげな顔の造作に救いがあった。
 怜悧な感じのストレートのロングヘアーなのだが、心持ちふっくらした頬が、親しみを感じさせる。
 麦子は秀雄より2歳上の28歳であった。

 一緒に鏡を見ている。
 ──照れるな。ハウスマヌカンってこんな感じなのかな?
 鏡の中の、笑顔の麦子が眩しい。

「良くお似合いですわ。とってもカッコイイわあ……ごめんなさい。素敵ですわ。お客様は、日本人離れした体格でいらっしゃいますから。思わず見とれちゃいます」

 ──おーおー見え透いたオセジを、次々と……でも……嬉しい。災難の後は、格別って事。

 照れ笑いにもなる。
「アハハハ」

「笑顔が素敵ですわ」

「いや……もう……カンベンしてチョー!」

 その時秀雄は、とっても似合わなくて、〝らしくない〟セリフが言いたくなった。

「あの、服を選んでもらったお礼に、今夜、食事でも、いかがっすか? えと、たいした店は、知らないけど、あの、せめて、日本にいる間に・・・お礼が・・・ダメっすか?」

 ちょっと考えてから麦子は答えた。

「ええ。ありがとう。・・・・あんまり遅くならないなら。喜んで、お誘い、お受けします」

「うひょー!」

「うふふふ」

 昨日までの二日間は、経営陣や戦略本部との打ち合わせに、余念の入るいとまも無かった。
 半ば、ヤケクソ気分で、この店を手伝いにきている麦子であった。
 どうせ、何処かへ出かけても「戦略本部」からの電話が鳴るのだ。

 ──『一人勝ち』かあ。確かにその通りよね。「不景気を勝ち抜く為だ!」って、リサーチに理念。「青畑あおはた君、どのくらいイケそうかね?」もう、そればっか! うるさいのよ。
 ──南昌ナンチャン店にしたって、現場の私にしてみれば、出たとこ勝負って事。……アハハ女は度胸って言葉、知らないのね。
 ──企画や戦略本部は、何かというと、「現場責任者は綿密に。しっかりとした予測の元に。我々のバックアップあってこそだ!」そもそも、私に対しての思いやりと配慮なんて、まったく持ち合わしてないんだから。

 目の前で、同世代の、自分より背の高い、しょうゆ顔の二枚目が笑っている。

 ──このヒト、笑顔が可愛いわ。やっぱり北京の人とは、だいぶ違うわね。
 ──せっかくの日本だもの、久々に羽を伸ばしたいわ。

 誰にでも好みはある。
 背の高い麦子が男性を見る時、ほぼ、男の正面顔が見える。
 目線より下に男の顔があるのも、珍しい事じゃない。
 だから、見上げる感じで会話する、しかもイケメン男性は、貴重な存在であった。




















 
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