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デート



 ウニクロの社員である麦子むぎこと、夕食の約束をした秀雄であった。
 ところで、まだ昼時ひるどきなのだ。

 ぐっしょりと濡れたジャケットとジーンズを、麦子むぎこに貰ったビニール袋に入れて、ギターのソフトケースの中に仕舞ったのだが、さすがにずっしりと重い。

 いっその事、棄てちまおうか? とも思ったのだが、三浦ミューラーから貰ったジーンズは、リーバイスのプレミアム物で、これは惜しい。樺山かばやまから貰ったジャケットも、バックスキンのちょっと良い品物で、気に入っていた。

 ──重たくて、うっとおしいなあ。孝太郎の携帯は通じねえし……どうせ、また、止められてるんだろなあ。行っても居なかったりして。したら、どーすべー?

 などと、つべこべ考えていると、麦子むぎこが言った。
「あの……夕食の、お礼と言っちゃ……くすくす。やっぱり変ですね。……よろしかったら、お昼、一緒にいかがですか?」

「え? ああ。いいですね」
 と答えた。

「何だか、此処ウニクロにいるのが馬鹿馬鹿しくなっちゃって。せっかくの東京ですもの」
 と麦子は笑って言う。 

「あ、そーですね」
 と答えると、

「すぐ、着替えてきますから。待っててくださる?」
 と言った。
 これは嬉しい秀雄だ。

「勿論! 外のコンビニで、タバコ買ってますんで」


 私服の麦子は、ジーンズにコート姿で出てきた。
 薄手のセーターの胸が、思い切り良く盛り上がっている。
 上背があるので、モデル並の格好良さだ。

 ファミレスでランチを食べた後、そのままデートとなった。
 麦子は、とりあえず、近場である裡弁寺りべんじのバザールが見たい。と言った。
 だから境内に入った。
 秀雄は、ついでに孝太郎のマンションへ行って、濡れた衣類を預けるつもりだ。



 日中は、すっかり暖かくなっていた。
 バザール会場の沙耶花の店舗では、ストリッパー達とマアくんが、ベドウィン族の宴会よろしく車座くるまざになって、ピザとサラダを並べて盛り上がっていた。

 三つある『喫茶店』の丸テーブルは、一つが空いている。

「あ、空いてるわ。自家製コーヒーゼリーですって。美味しそう!」
 と麦子が言った。

「此処は、止めた方がいい」
 と秀雄。

 先刻は気付かなかった。
 見落としたのか? 或いは、まだ陳列していなかったのか?
 見覚えのあるヌイグルミと、クマちゃんのスリッパ、そして黄色地に緑色の、ゾウさん柄のパジャマまであるじゃないか。
 すべて沙耶花のマンションで見た物だ。(雨のち強姦 第3話 参照)
 車座からは笑い声とともに、「ザマミロ」とか「変態ヤロー」なんて言葉も聞こえてくる。

 ──そっかあ! 沙耶花だったのかあ。くそ。〝お返し〟って訳かあ。
 ──シカシ判りにくい女だな。今日は、まるっきり違う顔じゃないか。
 ──おっと、気付かれないように……。
 秀雄は沙耶花達に背を向ける。

 ──沙耶花のやつ、「タコ殴りにさせる」って言ってたもんな。あの男、ヤクザっぽいしな。
 ──まだマシだったって訳か?

 ──スッカラカンに処分するつもりって事は、やっぱ、マンション売っ飛ばして、ズラかるつもりだな。
 ──いいさ。そのうちメッケて、また、ぶっ食らわしてやる。〝お返し〟の〝お返し〟って事。
 ──沙耶花め! 今度は〝クソ舐め〟どころじゃねーぞ! 覚悟しとけ! あー。チンボが立ってきた。



















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