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卑劣漢

「素敵なお店ね。よくいらっしゃるの?」
と麦子。
「まあね」
と秀雄。
麦子は〝いけるくち〟であった。
カクテルの杯を重ねる。
強いのだ。
よく食い、良く飲む。
秀雄はスコっチの『ヘイグ』を水割りで飲んでいる。
4分の1程残っていたキープボトルを、飲み干してしまったのでニューボトルを入れた。
秀雄がひそひそとささやく。
「麦子さん。5回はイったっしょ? スンゲ感度」
麦子もひそひそと答える。
「あーん。恥ずかしい。でも、あなた、凄く強いのね。……大きいし……。あなたは、良かった?」
並んで座れる低い椅子の、壁際ボックス席を陣取ったかいがあった。
加奈子とはいつも、フロア中央の丸テーブルを、正々堂々と使っている。
だから、いちゃいちゃするなんて出来っこないし、秀雄にしたって、スキャンダルの種を蒔くような行動は 謹んでいた。
ところで、麦子は大柄な絶品ボディのグラマーちゃんなのだが、大柄な女は、狡さやセコさがまったく無くて、おおらかで優しい。
こんな女は、一度、打ち解けると何でも素直に喋りたがる。
大柄なくせに無口で、なにやら秘密めいた女もいるが、あれは、喋るのが面倒くさいだけなのだ。
──どーせ喋っても、意味解んないだろうし……。
なんて考えているのだ。
どうしても、 俯瞰で男を見てしまう。簡単に言うと、 見下しているって事になる。
「あのね、私、北京で、付き合ってる男の人がいるの。でも、もう別れようと思ってるの。……そこで、具体的にどんな態度をとるべきか? って悩んでたの。お陰で、結論が出たわ」
「俺とヤったら、結論でたって訳?」
「まあ、そういう事になりますね。うふふふふ」
「どんな結論?」
「ええ。セックスを拒否する事にしたわ」
「ぶははは。スンゲ結論」
「笑わないでよ!」
「だってな、触られただけで、あんだけ感じるんだ。入れられたら、もう最後だ。あははは。イっちゃったら拒否も結論もねーだろ? 感度いーからなー。……抱きつかれないように、もう会わない方が良いんじゃね?」
「何よ! 私だって、いつもあんなに感じる訳じゃないのよ!」
「じゃ、俺が良かったって事?」
「さあ? 久々の東京が、感じさせたのよ」
「へ? そいじゃ、京都行って試してみっか?」

麦子は、4年間の北京生活の中、何人かの中国人男性と付き合った。
勿論、セックスもした。
皆、背が高く、それなりにイケメンだった。つまり、好みのタイプと付き合ってきたのだ。
どの男も長続きしなかったのは、やはり言語と、生活習慣の違いが原因だった。
いづれは日本に帰るつもりの麦子は、この国の男の好みに、合わせるつもりは更々無い。
中国が好きで、その結果、来た訳じゃない。
何の憧れも無いし、長い歴史にだって、ほとんど興味が無かった。
仕事だから居るだけなのだ。
まあ、こんな調子の麦子は、中国男性にしたって、深入りしたい相手じゃない。
だから、ハンサムなボーイフレンドが出来ると、パッと遊んで、ケンカして別れる。
そんな感じであった。
「もう別れようと思ってるの。……」と麦子の言う、その男。陽部長との交際は、昨年の6月から始まった。
半年余りの関係だ。
三十一歳。麦子より3歳上であった。
身長は麦子よりも5センチ程低い。
貧弱な体型で、顔だって好みのタイプじゃない。
関係会社の重役なのだが、権力を笠に着て交際を迫った訳ではない。
とにかくマメな男であった。
プレゼント攻勢に、高級店へのお誘い攻勢。
いい女は、こんなマメ男に、必ず落とされる。
陽部長は、党幹部の子弟であり、ウニクロのような外資の、受け皿的企業の一つ、『華北最合公司』という会社の企画部長であった。
このような、外資に群がるハイエナ企業では、当局に顔が利く人間ならば、多少ボンクラでも栄達できる。
党幹部である親が、軽薄な 放蕩者であるこの息子の為に、手配してやった職場なのだ。
真面目な兄弟達は政府の役人であり、それなりの要職に就いていた。
陽部長は、金にはまったく不自由してなかったし、それなりの権力もある。
いや、日本人である我々から見れば、必要以上の権力を有している。
実際、陽部長にとっては、いや、陽と同じような特権子弟階級の男は、女に不自由する訳が無かった。
地方出身の貧しい女性なんて、掃いて棄てる程いるのだから。
だから、こういう男の常として、珍しい女を欲しがるのだ。
何度か観光コースでデートを重ねた後、有名ホテルへ行きセックスをした。
「遊ばれちゃったなあ」
と思っていたのだが、その後、何日かして、「婚約しよう」と言われた。
婚約指輪を貰った。
高価な物であった。
だが、結納を交わすとか、つまり、親ぐるみの正式な申し込みではなかったので、 麦子は、恋人ごっこの 戯れの一つだと思う事にした。
一方、陽部長は、友人知人に会う時、麦子の事を婚約者だと紹介するようになった。
言葉の不自由な麦子としては、不本意ながら、曖昧な笑顔で対処していた。
ちなみに日本女性の得意ワザである、この『曖昧な笑顔』の魅力は、陽部長のハートをガッチリ捕まえたようで、本気で結婚を考えている様子なのだ。
しかし、この男、一族内では何一つ決定権を持ってはいない。
またそれを得る為の果敢さも、持ち合わしてはいない。
親から貰った権力を背景に、長い青春を謳歌して、いずれは一族を利する立場の女と、政略結婚させられるのだろう。
誰にでも、ありありと解る事だ。
勿論、麦子にも解った。
だから、曖昧笑いの下で、別れを考えるようになった。
成り行きで付き合っちゃいるが、元々好きなタイプじゃないのだ。
幸いな事に、 南昌支店がオープンする運びとなって、支店長を拝命した。
やっと、陽部長から離れられる。
──でも、この先、陽部長は、 南昌まで会いに来るだろうか? 私を抱く為に。
そう考えると、気が重くなる 麦子であった。

別れを望む気持ちとはうらはらに、何故だか、陽部長とのセックスは格別だった。
それはセックス以上のセックスであった。
実は、そのセックスの〝有りよう〟こそが、麦子に一抹の不安を与えているのだ。
──このままじゃ・・私・・ 獣になっちゃいそう・・・・
麦子は知る由も無いのだが、陽部長は悪い男であった。
人間は誰でも屈折した暗い一面がある。
金も権力もある人間の屈折した心情。
これは恐いものだ。
さて、作者と読者である我々の「エロ目線」は、国境を越え、時間を 遡り、北京での麦子と陽部長を 俯瞰するのだ。
二人のセックスは、たいていホテルを使うのだが、陽部長の高級マンションを使った事もある。

陽部長はすぐに挿入した。
だが、挿入後がいささか変わっていた。
陽部長は、ほんの少ししか、動いてくれないのだ。
挿入後、腰を密着させながら、麦子の乳房や首筋をさわさわと触り続ける。
八分勃ちくらいで挿入したペニスは、膣の中で膨らみ、やがて完全勃起状態となる。
この頃になると、いつでも、麦子の官能は全開を迎えている。
挿入された膣の中から、まるで染み出して来るような、強烈な快感なのだ。
「あっふ・・陽さん・・もちょっと動いてください・・ああ・・陽さん・・あなた・・意地悪・・」
麦子は激しく仰け反り、腰を振り、あえぎにあえぐ。
声を出し、抱きつき、脚を絡める。
いつしか、痴態の限りを尽くしているのだ。
それでも陽部長はピッチを上げない。
麦子の身体を冷静に観察しながら、スローモーションのように、緩慢に動き続ける。
そうだ。これは太極拳のスピードだ。
中国四千年の陰陽の技なのであろうか?
焦らしに焦らす。
そして、燃え上がりたい麦子は、狂ったように尻を振り初める。
「ああ・・ああ・・ああ・・ああ・・もすぐ・・イキそ・・」
この時はいつでも、自分がモルモットのような、実験動物にでもなったように感じる麦子なのだ。
官能は更に高まり、唇は陽部長の首筋に、乳首に、むしゃぶりつき、左右の手は、自らの乳房を握り締め、乳首を揉みしだき、円を書くように局部を擦りつけ、涙を流し、よだれまで垂らしている。
──何これ。ちょっと異常じゃない? 感じ過ぎ!
と心のどこかで、ちらっと思う。
「思う存分イクがいい!」
まさにその時、陽部長は、ぐいんぐいんと大きく腰を振る。
「うわあ・・あ・・あ・・はっく・・はう・・はう・・はっ・・はっぷ・・ふ・・ふ・・」
アクメである。
奇数拍子の痙攣が麦子を襲う。
痙攣は、燃え尽きるまで止まらない。
ぷるぷると震える真っ白い乳房に向かって、ゆっくりと抜いた陽部長が冷静に放つ。
「どーです。麦子さん。良かったですか?」
と毎回、同じ事を聞く。
「ええ。最高。私ばっかり、狂ったみたいに乱れちゃって、恥ずかしいわ」
と、これも、ほぼ毎回同じセリフなのだ。
「もっともっと狂ってください」
と言って陽部長は笑っている。
何故だか陽部長のこの余裕に、無性に腹が立つ麦子であった。
なぞなぞの、答えが解らぬ、もどかしさに似ている。
実は陽部長は、陰茎に覚せい剤を塗布して挿入していた。
この美形グラマーの日本人女を、セックスアニマルに仕立て、自分のペニスの奴隷にしよう。という魂胆なのだ。
陽部長は、ほくそ笑む。
──ふっくっくっく。アソコの粘膜から、この薬を吸収した女は、もう駄目だよ。
──絶対、私から逃げられないよ。
まったく事情が解らぬまま、それでも麦子は、この異常な官能の高まりに、本能的な違和感を覚えた。
やがてそれは、例えようの無い危機感となっていった。
ともあれ現実は甘くない。
半年間に及び、膣粘膜から吸収され続けた覚せい剤の成分は、今や確実に麦子の身体と脳を 蝕んでいた。
『別れるつもり』なのに、陽部長からの連絡を、心待ちにしてしまう。
彼の高級マンションを、思わず訪ねて行った事もある。
身体がシャブを求めているのだ。
多少の救いがあるとすれば、それは、〝いい女〟麦子の、性格の中にあった。
並の女なら、この中毒状態を、陽部長への愛情とはき違え、思慕を募らせた事だろう。
つまり、中毒状態と愛情をごった煮にして、セックス奴隷への道をひた走って行く。
〝いい女〟麦子の傲慢さが、それを阻んでいる。
だが、 麦子の守護霊の力も、この辺が限界だろう。
摂取し続ける限り、薬物のパワーに敵う訳が無いのだから。

陽部長は時折、延辺朝鮮人自治州の延吉市に出かけて行っては、北朝鮮製造の密輸覚せい剤を購入していた。
この卑劣漢は、屈折した征服欲故に、若くて貧しい中国人の少女を、すでに数名、シャブを使って淫乱奴隷にしていた。
今は、日本人美形グラマーである麦子の攻略に、主眼を置いている。だからといって、他の女狩りを止めた訳じゃない。
ロシア人美少女を求めて、中国東北部へ頻繁に〝出張〟している。

夜になった。
秀雄と 麦子は『クイーンズ・バー』の店内にいる。
この店は、加奈子に連れられて何度か来店していた。
フード類が充実していて、旨い。
第一、このあたりの 小洒落た店なんて、此処しか知らない。
秀雄と
この店は、加奈子に連れられて何度か来店していた。
フード類が充実していて、旨い。
第一、このあたりの
「素敵なお店ね。よくいらっしゃるの?」
と麦子。
「まあね」
と秀雄。
麦子は〝いけるくち〟であった。
カクテルの杯を重ねる。
強いのだ。
よく食い、良く飲む。
秀雄はスコっチの『ヘイグ』を水割りで飲んでいる。
4分の1程残っていたキープボトルを、飲み干してしまったのでニューボトルを入れた。
秀雄がひそひそとささやく。
「麦子さん。5回はイったっしょ? スンゲ感度」
麦子もひそひそと答える。
「あーん。恥ずかしい。でも、あなた、凄く強いのね。……大きいし……。あなたは、良かった?」
並んで座れる低い椅子の、壁際ボックス席を陣取ったかいがあった。
加奈子とはいつも、フロア中央の丸テーブルを、正々堂々と使っている。
だから、いちゃいちゃするなんて出来っこないし、秀雄にしたって、スキャンダルの種を蒔くような行動は
ところで、麦子は大柄な絶品ボディのグラマーちゃんなのだが、大柄な女は、狡さやセコさがまったく無くて、おおらかで優しい。
こんな女は、一度、打ち解けると何でも素直に喋りたがる。
大柄なくせに無口で、なにやら秘密めいた女もいるが、あれは、喋るのが面倒くさいだけなのだ。
──どーせ喋っても、意味解んないだろうし……。
なんて考えているのだ。
どうしても、
「あのね、私、北京で、付き合ってる男の人がいるの。でも、もう別れようと思ってるの。……そこで、具体的にどんな態度をとるべきか? って悩んでたの。お陰で、結論が出たわ」
「俺とヤったら、結論でたって訳?」
「まあ、そういう事になりますね。うふふふふ」
「どんな結論?」
「ええ。セックスを拒否する事にしたわ」
「ぶははは。スンゲ結論」
「笑わないでよ!」
「だってな、触られただけで、あんだけ感じるんだ。入れられたら、もう最後だ。あははは。イっちゃったら拒否も結論もねーだろ? 感度いーからなー。……抱きつかれないように、もう会わない方が良いんじゃね?」
「何よ! 私だって、いつもあんなに感じる訳じゃないのよ!」
「じゃ、俺が良かったって事?」
「さあ? 久々の東京が、感じさせたのよ」
「へ? そいじゃ、京都行って試してみっか?」
麦子は、4年間の北京生活の中、何人かの中国人男性と付き合った。
勿論、セックスもした。
皆、背が高く、それなりにイケメンだった。つまり、好みのタイプと付き合ってきたのだ。
どの男も長続きしなかったのは、やはり言語と、生活習慣の違いが原因だった。
いづれは日本に帰るつもりの麦子は、この国の男の好みに、合わせるつもりは更々無い。
中国が好きで、その結果、来た訳じゃない。
何の憧れも無いし、長い歴史にだって、ほとんど興味が無かった。
仕事だから居るだけなのだ。
まあ、こんな調子の麦子は、中国男性にしたって、深入りしたい相手じゃない。
だから、ハンサムなボーイフレンドが出来ると、パッと遊んで、ケンカして別れる。
そんな感じであった。
「もう別れようと思ってるの。……」と麦子の言う、その男。陽部長との交際は、昨年の6月から始まった。
半年余りの関係だ。
三十一歳。麦子より3歳上であった。
身長は麦子よりも5センチ程低い。
貧弱な体型で、顔だって好みのタイプじゃない。
関係会社の重役なのだが、権力を笠に着て交際を迫った訳ではない。
とにかくマメな男であった。
プレゼント攻勢に、高級店へのお誘い攻勢。
いい女は、こんなマメ男に、必ず落とされる。
陽部長は、党幹部の子弟であり、ウニクロのような外資の、受け皿的企業の一つ、『華北最合公司』という会社の企画部長であった。
このような、外資に群がるハイエナ企業では、当局に顔が利く人間ならば、多少ボンクラでも栄達できる。
党幹部である親が、軽薄な
真面目な兄弟達は政府の役人であり、それなりの要職に就いていた。
陽部長は、金にはまったく不自由してなかったし、それなりの権力もある。
いや、日本人である我々から見れば、必要以上の権力を有している。
実際、陽部長にとっては、いや、陽と同じような特権子弟階級の男は、女に不自由する訳が無かった。
地方出身の貧しい女性なんて、掃いて棄てる程いるのだから。
だから、こういう男の常として、珍しい女を欲しがるのだ。
何度か観光コースでデートを重ねた後、有名ホテルへ行きセックスをした。
「遊ばれちゃったなあ」
と思っていたのだが、その後、何日かして、「婚約しよう」と言われた。
婚約指輪を貰った。
高価な物であった。
だが、結納を交わすとか、つまり、親ぐるみの正式な申し込みではなかったので、
一方、陽部長は、友人知人に会う時、麦子の事を婚約者だと紹介するようになった。
言葉の不自由な麦子としては、不本意ながら、曖昧な笑顔で対処していた。
ちなみに日本女性の得意ワザである、この『曖昧な笑顔』の魅力は、陽部長のハートをガッチリ捕まえたようで、本気で結婚を考えている様子なのだ。
しかし、この男、一族内では何一つ決定権を持ってはいない。
またそれを得る為の果敢さも、持ち合わしてはいない。
親から貰った権力を背景に、長い青春を謳歌して、いずれは一族を利する立場の女と、政略結婚させられるのだろう。
誰にでも、ありありと解る事だ。
勿論、麦子にも解った。
だから、曖昧笑いの下で、別れを考えるようになった。
成り行きで付き合っちゃいるが、元々好きなタイプじゃないのだ。
幸いな事に、
やっと、陽部長から離れられる。
──でも、この先、陽部長は、
そう考えると、気が重くなる
別れを望む気持ちとはうらはらに、何故だか、陽部長とのセックスは格別だった。
それはセックス以上のセックスであった。
実は、そのセックスの〝有りよう〟こそが、麦子に一抹の不安を与えているのだ。
──このままじゃ・・私・・
麦子は知る由も無いのだが、陽部長は悪い男であった。
人間は誰でも屈折した暗い一面がある。
金も権力もある人間の屈折した心情。
これは恐いものだ。
さて、作者と読者である我々の「エロ目線」は、国境を越え、時間を
二人のセックスは、たいていホテルを使うのだが、陽部長の高級マンションを使った事もある。
陽部長はすぐに挿入した。
だが、挿入後がいささか変わっていた。
陽部長は、ほんの少ししか、動いてくれないのだ。
挿入後、腰を密着させながら、麦子の乳房や首筋をさわさわと触り続ける。
八分勃ちくらいで挿入したペニスは、膣の中で膨らみ、やがて完全勃起状態となる。
この頃になると、いつでも、麦子の官能は全開を迎えている。
挿入された膣の中から、まるで染み出して来るような、強烈な快感なのだ。
「あっふ・・陽さん・・もちょっと動いてください・・ああ・・陽さん・・あなた・・意地悪・・」
麦子は激しく仰け反り、腰を振り、あえぎにあえぐ。
声を出し、抱きつき、脚を絡める。
いつしか、痴態の限りを尽くしているのだ。
それでも陽部長はピッチを上げない。
麦子の身体を冷静に観察しながら、スローモーションのように、緩慢に動き続ける。
そうだ。これは太極拳のスピードだ。
中国四千年の陰陽の技なのであろうか?
焦らしに焦らす。
そして、燃え上がりたい麦子は、狂ったように尻を振り初める。
「ああ・・ああ・・ああ・・ああ・・もすぐ・・イキそ・・」
この時はいつでも、自分がモルモットのような、実験動物にでもなったように感じる麦子なのだ。
官能は更に高まり、唇は陽部長の首筋に、乳首に、むしゃぶりつき、左右の手は、自らの乳房を握り締め、乳首を揉みしだき、円を書くように局部を擦りつけ、涙を流し、よだれまで垂らしている。
──何これ。ちょっと異常じゃない? 感じ過ぎ!
と心のどこかで、ちらっと思う。
「思う存分イクがいい!」
まさにその時、陽部長は、ぐいんぐいんと大きく腰を振る。
「うわあ・・あ・・あ・・はっく・・はう・・はう・・はっ・・はっぷ・・ふ・・ふ・・」
アクメである。
奇数拍子の痙攣が麦子を襲う。
痙攣は、燃え尽きるまで止まらない。
ぷるぷると震える真っ白い乳房に向かって、ゆっくりと抜いた陽部長が冷静に放つ。
「どーです。麦子さん。良かったですか?」
と毎回、同じ事を聞く。
「ええ。最高。私ばっかり、狂ったみたいに乱れちゃって、恥ずかしいわ」
と、これも、ほぼ毎回同じセリフなのだ。
「もっともっと狂ってください」
と言って陽部長は笑っている。
何故だか陽部長のこの余裕に、無性に腹が立つ麦子であった。
なぞなぞの、答えが解らぬ、もどかしさに似ている。
実は陽部長は、陰茎に覚せい剤を塗布して挿入していた。
この美形グラマーの日本人女を、セックスアニマルに仕立て、自分のペニスの奴隷にしよう。という魂胆なのだ。
陽部長は、ほくそ笑む。
──ふっくっくっく。アソコの粘膜から、この薬を吸収した女は、もう駄目だよ。
──絶対、私から逃げられないよ。
まったく事情が解らぬまま、それでも麦子は、この異常な官能の高まりに、本能的な違和感を覚えた。
やがてそれは、例えようの無い危機感となっていった。
ともあれ現実は甘くない。
半年間に及び、膣粘膜から吸収され続けた覚せい剤の成分は、今や確実に麦子の身体と脳を
『別れるつもり』なのに、陽部長からの連絡を、心待ちにしてしまう。
彼の高級マンションを、思わず訪ねて行った事もある。
身体がシャブを求めているのだ。
多少の救いがあるとすれば、それは、〝いい女〟麦子の、性格の中にあった。
並の女なら、この中毒状態を、陽部長への愛情とはき違え、思慕を募らせた事だろう。
つまり、中毒状態と愛情をごった煮にして、セックス奴隷への道をひた走って行く。
〝いい女〟麦子の傲慢さが、それを阻んでいる。
だが、
摂取し続ける限り、薬物のパワーに敵う訳が無いのだから。
陽部長は時折、延辺朝鮮人自治州の延吉市に出かけて行っては、北朝鮮製造の密輸覚せい剤を購入していた。
この卑劣漢は、屈折した征服欲故に、若くて貧しい中国人の少女を、すでに数名、シャブを使って淫乱奴隷にしていた。
今は、日本人美形グラマーである麦子の攻略に、主眼を置いている。だからといって、他の女狩りを止めた訳じゃない。
ロシア人美少女を求めて、中国東北部へ頻繁に〝出張〟している。
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